翌朝から、空はまた泣き出した。いや、実際には、夜中のうちから。

 この朝は少年も半べそをかいていた。通路にきた友達の制服を掴んですがっている。

 「ああ……ああ、間瀬くん……間瀬くん……」

 「なんだよ、気持ち悪い。あと名字で呼ぶな」

 「殺すって言われた」

 「ふうん。……え、は? なんて?」

 「告白したけど、殺すよって言われた」

 「お前どんなやつに惚れてんだよ」

 「わかんない……あんな人じゃなかったのに……」

 「でもお前、五年話してないって言ってたけど、今から五年前って小学校二年生くらいのころだろ? まだ当時は人格が固まりきってなかったからちょっとかわいげあったんじゃねえ?」

 「ジンカク? 難しいこと言わないで……」

 服にぐりぐりと押し付けられる少年の頭を、友達は必死に押し返す。「気持ち悪い、くっついてくんな」

 「間瀬くん……」

 「なんだよ。てか名前で呼べ」

 言ったあと、友達は「あっ」と声を発した。

 「お前、相手が嫌がる呼び名連呼したんだろ。おれも今殺意が沸いた」

 「普通に名前で呼んだだけだよ」

 「で?」

 「え?」

 「余計な言葉くっつけたりしなかった?」

 「ちゃんはつけたよ。最後に呼んだのもそうだったし、その呼び方しかしたことないし」

 「相手はそれが嫌だったんじゃねえか?」

 「呼び捨てがよかったってこと?」

 言いながら少年が顔を上げると、友達は「そんな子犬みたいに助け求めるなよ」と言って、彼の頭を押し返した。

 「まあ、そうだなあ……呼び捨て、か――もしくは、くん?」

 「ばかじゃないの?」

 「うるせえな、一つの可能性の話だろうが」

 「でも違うでしょう」

 「そんなもんわからねえだろうが」

 友達はため息をついて、頭を掻いた。

 「で、殺すとか言われたくらいじゃ、告白は失敗ってわけだ?」

 友達の問いに、少年は「ううん」と首を振る。

 「は? そんな脅迫されながらよく成功したと思えるな。おれが自信持たせすぎたか?」

 「違う。ちゃんと、いいよって言ってくれた」

 「でも脅迫はされたんだろ? おれはもう驚愕したんだから、その話聞いて」脅迫だけにな、と友達は得意げに笑う。

 「でも、ちゃんといいよって言ってくれた」

 「それ、あれじゃねえの? ぶちのめすタイミング見計らうためじゃねえの? 恋人のふりをして、お前が幸せの絶頂に立ったときに、一気に突き落とすっつう」

 「なんでおれそんなに嫌われてるの?」

 「知らねえよ、お前がなんかやったんじゃねえの?」

 「告白くらいだよ」

 「まじか……。えっ、じゃあおれのせいじゃんか」

 「そうは思わないけど……。どうしよう、一緒にいない方がいいのかな……」

 「さあ、どうだろうな。どんな感じでその脅迫されるに至ったのか」

 「そりゃあ、普通に告白しただけだよ。思ってることも全部伝えて」