箸箱を入れた巾着袋をバッグにしまうと、間瀬くんが隣にきた。

 「彼女観察は?」と言うその顔は、にやにやと楽し気に笑っている。

 「見つかったらどうするの」

 「逃げろ、一目散に」

 「最悪だよ。放課後とかもう会えないでしょ」

 「会ったら話せばいいだろ。『おおー、なにしてんの、なにしてんの? おれはまあ……ぶっちゃけキミに会いたくてこの辺徘徊してた的な?』つって」

 「おれならたぶん、二度とその人と口きかない」

 「あーあ、そりゃあ残念だ。でもどうだ? おれも付き合うぞ」

 「嫌だよ、間瀬くんに好きな人知られるの」

 「いいじゃんか。安心しろ、おれは圧倒的に年下派だ」

 「逆に心配だよ!」

 「大丈夫だ。おれはお前の好きな人を奪ったりはせん。なにせ年下派だからな」

 大丈夫かな、とおれは心の中に呟いた。

 「妹みたいなかわいさがあるだろう? 年下って。まあ、年下の彼女も妹もいねえんだけど」

 「そうなんだ」

 間瀬くんはおれの背中をぽんぽんと叩いた。

 「ほれほれ、行ってみようぜ。楽しいじゃん、こういうの」

 「他人事だからでしょう?」

 「まあまあ、お前を応援してる気持ちは本物だぜ?」

 行こう行こうと背中を押されて、教室を出た……というより、教室を出されてしまった。