部活終わり、自転車置き場に着いても、透くんは現れなかった。

 わたしはバッグを自転車の荷台に載せ、赤のゴム紐で固定した。自転車を押して、どこか清々しい気持ちで自転車置き場を出る。

 透くんはきっと、わたしの気持ちに気づいたんだ。だからこうして、距離を置いている。

 鼻歌でも歌いたい気分で校門を出ると、「あっ紫乃ちゃん、お疲れ」と透くんの声が聞こえた。ああこいつ全然わかってなかった……!

 わたしはぎくりとして足を止め、声のした方へ視線を投げた。

 「なにしてんの?」

 「だって、用心棒だから」

 この期に及んでまだ用心棒という言葉を口にするか。禁句だよ、それはもう。

 「一人では帰らないって?」

 「だって、危ないじゃん」

 「なにが」

 「世の中にはいろんな人がいるんだよ。だからいろんな事件が起こってる」

 事件に巻き込まれてわたしという用心棒がいなくなっては困るってことね。

 「話が壮大だなあ」

 「そんなことないよ。この辺りでも不審者が出たとか聞くじゃない」

 「はいはい。でもわざわざわたしなんかにくっついてこないでしょう」

 「不審者っていうのはそういうものなんだよ」

 「はいはい、そうだね」

 ん? あれ? 今さらっと、けなされた? 無自覚なのか、こいつは。この男は、悪気はないで、こう、人を傷つけるのか? ああそうか、そうだったのか。それなら仕方ない――とでも言うと思ったか。悪意のない悪事が一番たちが悪いと、お母さんが言っていた。つまりこやつは正真正銘の悪党。

 「おれ、紫乃ちゃんが悲しんだり、傷ついたりするの、一番嫌なんだ」

 お前が一番悲しませてるし傷つけてるんだよ、とは、こうもまっすぐな目で見つめられると、声にはできない。

 「紫乃ちゃんにはね、幸せでいてほしいんだ。できることなら、おれのそばで」

 「へえ……」

 残念だけど、できないんだよ。君のそばではわたしは幸せになれないんだよ。申し訳ないことだけどさ。