自席で、窓の外の雨を眺めながら、わたしは想像を巡らせた。

 「わたしだって、透くんのこと好きだよ。だからさ……用心棒とか、やめてよ……」

 透くんは驚いたように目を大きくする。

 「紫乃ちゃん……。ごめん、おれ、間違ってた。おれは紫乃ちゃんが好きなんだもん、こんなのおかしいよね。じゃあ、改めて。おれと一緒にいてくれないかな。恋人として」

 わたしはうつむき加減に――「うん……」、そして一気に顔を上げて、「とでも言うと思ったか⁉――」……。

 いいや、と首を振る。違う。こんなんじゃない。しかもこんなにわかりやすくわたしから誘ってしまってはつまらない。あくまでも透くんが現状を変えようと考えるように誘導しなくてはならない。そして、彼がありったけの勇気を持って行動を起こしたときに、「とでも言うと思ったか⁉」で返す。

 「ねえ。透くんはわたしが好きなんでしょう? わたしも、透くんのこと、嫌いじゃないの。ううん、本当は好き。だから、一緒にいてって言われたとき、すっごく嬉しかったの。でも、でも……わたしは……透くんの用心棒でしかないから……」

 ウソ泣き作戦。突然泣き出したわたしにあたふたした透くんが……。

 「ごめんごめん、やっぱり、こんなのおかしいよね。うん。おれだって男なんだし、勇気出さないと。ねえ、紫乃ちゃん……。これからはさ、やっぱり――」

 「――とでも言うと思ったか⁉」――。

 ……いいや、違う。これじゃさっきとなにも変わらない。わたしは、透くんを動かすんじゃなくて、動くように誘導するべきなんだ。背中を押してしまえば、当然前に踏み出す。そうしないで、前に踏み出してもらうには――。

 一つ、前から手招く。二つ、あっちで○○さんが呼んでたよ、と嘘の伝達をする。三つ、ボールを投げる。四つ、わあ、なんだあれ⁉と前方を指さし、違う違う、もっと先、を繰り返す――。

 わたしは髪の毛を搔き乱した。全部だめ。しかもボールに関しては、完全に透くんのイメージに引っ張られている。確かに子犬みたいな人だけど、実際にボールを投げたところで、どうしたの?と見つめてくるのがオチに決まっている。そう、あのガラス玉みたいな目で。

 どうすれば透くんは状況を変えようとするだろう。用心棒のままじゃ一緒にいない、と脅す? いや、そんな自信満々な人なら、わたしは一緒にいてくれなくていい。たとえ直前まで大好きだったとしても、一気に冷める。

 あれ、でも?――。

 昨日、充分自信満々な態度をとらなかったっけ? いや、昨日に始まったことでもない。ああそうだ、昨日の終わり近くまでは嫌われることを恐れていなかったから。

 「あれ?」

 いっそ、嫌われてしまえばいいんじゃない? なにも、とでも言うと思ったか⁉と叫ばなくてはいけないわけじゃない。それは本当の目標ではないのだから。わたしは透くんの用心棒を卒業して、今まで通りの関係に戻れればいい。といっても、それは透くんのことをすっかり忘れていたころのことなのだけれど。