「別に……大っ嫌いってわけじゃない」
「でも、好きじゃない?」
ああ、意地悪。大嫌いではないんだから、それでいいじゃん。それなのに、なんでそんなこと訊くの? 好きじゃないよ。好きじゃない。どちらかと言えば……ううん、どちらかと言わなくたって、嫌い。だけどそれを伝えたら、あんたはどうする? きっと、そっか、とか言って、どうしようもなく悲しそうに笑うでしょう? わたしに罪の意識を芽生えさせて、笑うでしょう? わたしが再会した森山透は、そういう人。
「もし、嫌いって言ったら、どうする?」こんなふうに遠回りしてだって、嫌いという言葉を発音するのに、すごく勇気がいる。それだけ、この人の表情は綺麗なのだ。表情は。
透くんはふにゃりと頼りなく笑った。「諦められないかも」と言うその笑顔は、わたしの想像していたものとは違った。
「おれ、紫乃ちゃんが好きなんだよ。ずっとずっと。やり場に困ってた、大好きって気持ちの。ずっとクラスが違ったから。だけど、廊下とか、合同の体育なんかで紫乃ちゃんを見かけると、ちょっとだけ、気持ちが落ち着いた。理科で習った静電気みたいに、大好きっていう気持ちが、柴乃ちゃんに吸い寄せられていく感じで。だけど、それが終わっちゃうと、また、大好き大好きって湧いてきて、おかしくなりそうだった」
「それで、なんで用心棒なの?」
用心棒じゃなくて、恋人にしてくれればよかったじゃん。確かに、まだ中学生で、恋人、なんて言ったって、それらしいことはできない。遠くに出かけることだって難しいし、ごはんを食べるといっても、コンビニでお菓子とかおにぎりを買うのがお小遣いの限界だけど、それでいいじゃん。用心棒なんて悲しいこと言わないで、恋人にしてくれればいいじゃん。恋人として一緒にいようって言ってくれたなら、透くんを見る目も、少しは違ったかもしれないのに。
「それは……」
透くんは唇を結んで、うつむく。だからどうして、そう悲しそうな顔するのよ。
「紫乃ちゃん、嫌だろうと……」
「それは聞いたよ。なんでそれでわたしが嫌がると思ったの?」
「おれなんかが恋人なんて、嫌じゃん。でも用心棒なら、お守りみたいな感覚で、気楽でしょう?」
「はあ……?」
恋人じゃなくて、あくまで神様ってこと? 自分がわたしの恋人にならないように、わたしを自分の守り神にしたってこと?
「わかんない。ぜんっぜんわかんない。透くん、おかしいよ」
「正直ね。おれ、紫乃ちゃんと一緒にいられれば、なんでもいいんだ」
「だったら、普通に付き合ってくれればいいじゃん」
「ごめん……」
ああ、だめだ。この人にわたしの気持ちは伝わらない。どうして、じゃあこれからは恋人ってことでってならないんだろう。いや、もちろんそんなことを言われても断るけど。そんな都合のいいように使われるなんてごめんだもの。
そこまで思って、はっとした。そうか、透くんは気づいているんだ。今から形を変えれば、わたしが拒絶すると。そうしないために、頑なに現状を変えようとしないんだ。
それに気が付けば、心の中のわたしがにやりと口角を上げた。よし、なんとしてでも状況を変えさせよう。そして言ってやるの。うん、いいよ……とでも言うと思ったか⁉ ばーか!と。そうだ、そうしよう。
「でも、好きじゃない?」
ああ、意地悪。大嫌いではないんだから、それでいいじゃん。それなのに、なんでそんなこと訊くの? 好きじゃないよ。好きじゃない。どちらかと言えば……ううん、どちらかと言わなくたって、嫌い。だけどそれを伝えたら、あんたはどうする? きっと、そっか、とか言って、どうしようもなく悲しそうに笑うでしょう? わたしに罪の意識を芽生えさせて、笑うでしょう? わたしが再会した森山透は、そういう人。
「もし、嫌いって言ったら、どうする?」こんなふうに遠回りしてだって、嫌いという言葉を発音するのに、すごく勇気がいる。それだけ、この人の表情は綺麗なのだ。表情は。
透くんはふにゃりと頼りなく笑った。「諦められないかも」と言うその笑顔は、わたしの想像していたものとは違った。
「おれ、紫乃ちゃんが好きなんだよ。ずっとずっと。やり場に困ってた、大好きって気持ちの。ずっとクラスが違ったから。だけど、廊下とか、合同の体育なんかで紫乃ちゃんを見かけると、ちょっとだけ、気持ちが落ち着いた。理科で習った静電気みたいに、大好きっていう気持ちが、柴乃ちゃんに吸い寄せられていく感じで。だけど、それが終わっちゃうと、また、大好き大好きって湧いてきて、おかしくなりそうだった」
「それで、なんで用心棒なの?」
用心棒じゃなくて、恋人にしてくれればよかったじゃん。確かに、まだ中学生で、恋人、なんて言ったって、それらしいことはできない。遠くに出かけることだって難しいし、ごはんを食べるといっても、コンビニでお菓子とかおにぎりを買うのがお小遣いの限界だけど、それでいいじゃん。用心棒なんて悲しいこと言わないで、恋人にしてくれればいいじゃん。恋人として一緒にいようって言ってくれたなら、透くんを見る目も、少しは違ったかもしれないのに。
「それは……」
透くんは唇を結んで、うつむく。だからどうして、そう悲しそうな顔するのよ。
「紫乃ちゃん、嫌だろうと……」
「それは聞いたよ。なんでそれでわたしが嫌がると思ったの?」
「おれなんかが恋人なんて、嫌じゃん。でも用心棒なら、お守りみたいな感覚で、気楽でしょう?」
「はあ……?」
恋人じゃなくて、あくまで神様ってこと? 自分がわたしの恋人にならないように、わたしを自分の守り神にしたってこと?
「わかんない。ぜんっぜんわかんない。透くん、おかしいよ」
「正直ね。おれ、紫乃ちゃんと一緒にいられれば、なんでもいいんだ」
「だったら、普通に付き合ってくれればいいじゃん」
「ごめん……」
ああ、だめだ。この人にわたしの気持ちは伝わらない。どうして、じゃあこれからは恋人ってことでってならないんだろう。いや、もちろんそんなことを言われても断るけど。そんな都合のいいように使われるなんてごめんだもの。
そこまで思って、はっとした。そうか、透くんは気づいているんだ。今から形を変えれば、わたしが拒絶すると。そうしないために、頑なに現状を変えようとしないんだ。
それに気が付けば、心の中のわたしがにやりと口角を上げた。よし、なんとしてでも状況を変えさせよう。そして言ってやるの。うん、いいよ……とでも言うと思ったか⁉ ばーか!と。そうだ、そうしよう。



