じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 自転車置き場に入ると、「紫乃ちゃーん」と男の声が聞こえた。ああ、あいつだ。

 振り返ると、まさに鶴見さんを相手に想像したのと同じ様子で駆け寄ってくる透くんがいた。

 「待っててくれたの?」と言う彼へ、「ばっかじゃないの?」と返す。

 透くんはわたしの後ろを見ると、ぱっと笑った。

 「紫乃ちゃん、バドミントン部なんだ?」

 聞けよと怒鳴りたいのを飲み込んで、「そうだけど」と返す。ラケットケースなら昨日だって背負ってたじゃん。

 「ていうかあんた、なんでわたしだったの? 鶴見さんでよかったじゃん」

 「ツルミさん?」

 そう言って、透くんは小首をかしげる。

 「仲いいんでしょ? お互いの家に行くくらい」

 ん?と、彼は眉を寄せる。「なんのこと? ツルミさんって誰?」

 あくまでしらを切るつもりか。

 「同じクラスに鶴見さんっているでしょう、女の子」

 「ええ……?」と、彼は腕を組んで考え込む。「ツルミ……。いや、そんな人いないよ。おれのクラス、タ行ではタナカさんとチバさんがいるけど、その次はナイトウさんだもん」

 「えっ?」

 どうしよう、なんて、口には出さない。透くんが嘘をついているように見えなくなってきた、とも、口には出さない。

 大丈夫、きっと鶴見さんを飛ばしてそんなことを言っているのよと言い聞かせていると、「もりっちー、早くー」と、鶴見さんの声が聞こえてきた。「ちょっと待って、つるみん走るの速いよー」と女の子の声が続く。

 「えっ、もりっち……?」

 恐る恐る、声の聞こえた昇降口の方を見てみると、鶴見さんがすごい勢いで走ってきた。

 「ちょっと隠れさせて」と飛びついて、わたしの背後に身を隠した。

 すぐに「つるみーん」と叫びながら、髪の毛の短い女の子が走ってきた。「隠れたの見てたよ」と、こちらに寄ってきて、鶴見さんはわたしの後ろから駆け出した。「待てこら!」と、髪の短い女の子も鶴見さんのあとを追う。

 静寂が戻ってから、「ツルミさんって、あの人?」と透くんは言った。

 「おれ、あの人知らないよ?」と続ける彼へ、「うるさい」と返す。

 「もしかして、おれがいなくなっちゃうとか心配した?」

 「はあ⁉ ばっかじゃないの?」

 あんたなんか、逆にいなくなってくれた方が清々するんだから、と言ってやると、透くんは「ええ、それは悲しいなあ」と眉尻を下げる。

 「ねえ、紫乃ちゃんはおれのこと嫌い?」

 言いながら、顔を覗き込んでくる。

 「ばっかじゃないの。嫌いだよ、そういうところ」

 そういう、自分がかわいそう、みたいな顔をするところ。どうしてか、わたしの胸に罪悪感を広げさせるところ。本当、大嫌い。

なんでそんな悲しい顔をするの? どうしてそんな、寂しそうな顔をするの? いきなり用心棒として一緒にいて、なんて言われて、わたしだってそういう顔したいのに。どうしていつも、先にあんたがそんな顔しちゃうの?