じゃあ、おれと一緒にいてよ。~5年ぶりに会った幼なじみが美少年になってました~

 体育館を出ると、雨に湿った風がぶわりと吹いて、重たく髪の毛を揺らした。これでは汗の一滴も乾かしてはくれない。出てくる前にトイレで顔を洗ってきたのは正解だった。

 しかし、透くんのこと。ああ、やっぱりもやもやする。なんでわたしがあいつの用心棒なぞ務めねばならない。どうせ引き受けてしまうのなら、思い切り腹パンの一発でも決めてからにするんだった。もちろん、今日にでも「あんたの用心棒なんかやってられない」、「自分の身くらい自分で守りなさいよ」とでも言って用心棒を卒業することはできる。

けれど、それはなんだか悔しい。一度やると言ったのに、それをまったく実行しないまま辞めるというのは、なんだか悔しい。たぶん、有言実行、武士に二言はない、なんて言葉があるのが悪い。こんなふうに、そうしたいと思わせてしまうのが悪い。でも――。有言実行、武士に二言はない。やっぱりかっこいい。

 一つ舌打ちをすると、「アキちゃん?」と、鶴見さんの声がした。

 「鶴見さん、クラスにさ、森山ってやついる?」

 「森山さん? いるよ。勉強もできるしかわいいしで、人気者だよ」

 「へえ。結構いろんな人に言い寄られる感じ?」

 「まあ、そうなんじゃないのかなあ……。よくわからないけど。なんで?」

 「いや……。あんまりしゃべらないの?」

 「そんなことないよ。普通に話すし、友達だよ? 普通にお互いの家に行ったりもするし」

 「ふうん……」

 ん、友達? しかも、お互いの家に行くって?

 「え、鶴見さん、森山と友達なの? 家に行くほどの?」

 「うん。かわいいペンケース持ってるねって声かけてくれて」

 「え、それで友達に?」

 「まあ、そんな感じかな。きっかけを挙げるならそれかな」

 「へえ……」

 「え、なんで? もりっちがどうかしたの?」

 「もりっち⁉ もりっちって呼んでるの?」

 「うん。わたしはつるみんって呼ばれてる」

 「え、そんなに仲いいの?」

 「うん、まあね」

 「はあ……?」

 もりっち、つるみん、てなによ。「あっ、もりっちー」なんて手を上げる鶴見さんに、「わあ、つるみんー」なんて言っているのか。あの子犬みたいな目を輝かせて、しっぽをぴんと持ち上げてぷるぷると揺らしている様を想像させるような雰囲気をまとって、「待ったー?」なんて駆け寄ったりしているのだろうか。

 「……なんっじゃそりゃあ!」

 「アキちゃん……?」と鶴見さんの声が聞こえて、声に出してしまったと気づく。

 「ううん、ごめん、なんでもない」と笑顔を作ってみるけれど、どれくらいうまくできているかわからない。

 そんなに仲がいいのなら、護衛だって鶴見さんに頼めばいいじゃない。どうしてわざわざわたしに頼んだのだろう。もう何年も話してないし、会ってもいないのに。嫌がらせ? 嫌がらせなのだろうか。でも……わたし、あいつになにかしたっけ?