試合終了後、「なんか急にうまくなったね」と鶴見さんに言われた。

 得点版は、三ゲームまで続いたことと、三ゲーム目ではわたしたちが先に二十一点を取ったことを表して止まっている。

 「昨日、椎名さんにしごかれたんだよ」とわたしは笑い返す。

 「ええ、椎名さんから特別指導受けたってこと?」

 「まあ、そんな感じになるのかな。昨日、椎名さんとシングルスで戦って、そのあとに」

 「へええ。それだけ?」
 
 「そうだね。特にそのあと練習したとか、そういうわけでは」

 「ええ、それでこんなに変わるの?」

 すごいなあ、と、鶴見さんが天井を仰ぐ。

 「ああ、でも……」

 わたしが言うと、彼女は「ん?」と振り返った。

 「ちょっと、もやもやはしてた」

 「もやもや?」

 「ちょっとね。昨日の放課後、むかつくことがあって……」

 「ええ、アキちゃんが怒るって結構なことじゃない?」

 「いや、そんなことはないけどさ」

 「なにがあったの?」

 「いや、なんか、ちょっと……」

 なんて言うべきなのか、そもそも鶴見さんに話すべきことなのか悩んで、もごもごとしゃべったあと、わたしは口を閉じた。

 「なになに? 気になるじゃん」

 「いや、本当に大したことじゃなくて……」

 「なに? だからこそ話しやすいじゃん」

 「そんなこともなくて……」

 幼なじみと久しぶりに再会したと思ったら、それに涙ぐむような暇もなく用心棒を頼まれた、なんて話したら、鶴見さんに知られたら、恥ずかしくてたまらない。

 「ふうん。まあ、そんなに話したくないならいいんだけどさ。あんまりそのもやもやとやらを溜め込みすぎるんじゃないよ」

 「うん、ありがとう……」

 ああ、なんだか思い出したらまたもやもやしてきた。ぎゅっとラケットのグリップを握ると、「え、どうした?」と鶴見さんが顔を覗き込んできた。「なんか、イライラしてきた」と言うと、「ええ……」と鶴見さんは苦笑いした。