空が、久しぶりに泣き止んで、涙の痕が残る顔で世界を眺めている、ある日の夕方。太陽は分厚い雲の遥か遠くから必死に世界を照らしている。けれど、光という光は届かず、地面に影は映らない。
そんな中、一筋の光を見つめては目を逸らす少年が一人。友達と一緒に、自転車を支えて立っている。
「いいから行けよ、めんどくせえな」と友達。
「やっぱり無理だよ」と少年。
「なんで無理だと思うんだよ」
「だって五年も話してないんだもん」
「知るかよ、そんなこと。五年くらいのブランクぶち壊しちゃえよ、男だろ?」
「男ってなんでもできなきゃいけないの? ていうか、そんなことができたら間瀬くんといないよ」
さらりと言う少年に、友達は「おい、こら」と苦笑い。
「失礼なやつだな。恋人出来ても一緒にいろよ、寂しいだろうが。あと名字で呼ぶな。ませてるって言われてるみたいで嫌なんだっつうの」
友達の横で、少年は深くため息をつく。
「やっぱり無理だって、絶対」
「ばか野郎。絶対なんかあってたまるか。成しゃあなんだって成るんだよ」
「でもおれは……」
「うるせえっつうの。つべこべ言わずさっさと行ってこいって」
「間瀬くんだったらいける?」
「いくよ、すっきりしねえじゃん。てか名前で呼べ」
「すっきりって……。おれがすっきりしてもさ、相手はもやもやするかもしれなくない?」
「知ったことかよ、そんなもん。告白なんてどれもわがままなもんだろうが」
そう言って、友達は顎の下で片手を握った。
「『ずっと前から、山田くんのことが好きだったのっ』」と裏声で言うと、手を下ろして、普段の声で「とかさ」と続け、今度は深くうつむいた。
低い声で言う。「『実はおれ、その……お前から借りてた漫画、借りパクとかじゃなくて、その、なんだ……母ちゃんに捨てられちまってよ……』」。
言い終えて顔を上げると、友達はいつもの調子に戻る。
「とかさ。ただ伝えたい側が伝えたいこと言うだけのことだろ? 戻ってこない漫画は借りパクじゃなかった事件なんか、持ち主はもう、もやもやどころの騒ぎじゃないじゃんか。おれならそいつぶちのめすもん」
「でも……だから、おれはそういう――」
友達は思い切り息を吸い込んで、「うるせえっつーの」と叫んで、力の限り、少年の背中を叩いた。そして、ぐいっと、強く強く、前に押し出した。
「痛!」と少年が一歩飛び出して振り返ると、友達は少し怒ったような表情を作って、「自転車に乗るときは進行方向を見ること」と、人差し指で前方をさした。
少年は勢いに任せてペダルを踏み、自転車にまたがって駆け出す。
恋の芽が、光を求めて、高く高く――空を昇り始めた。
そんな中、一筋の光を見つめては目を逸らす少年が一人。友達と一緒に、自転車を支えて立っている。
「いいから行けよ、めんどくせえな」と友達。
「やっぱり無理だよ」と少年。
「なんで無理だと思うんだよ」
「だって五年も話してないんだもん」
「知るかよ、そんなこと。五年くらいのブランクぶち壊しちゃえよ、男だろ?」
「男ってなんでもできなきゃいけないの? ていうか、そんなことができたら間瀬くんといないよ」
さらりと言う少年に、友達は「おい、こら」と苦笑い。
「失礼なやつだな。恋人出来ても一緒にいろよ、寂しいだろうが。あと名字で呼ぶな。ませてるって言われてるみたいで嫌なんだっつうの」
友達の横で、少年は深くため息をつく。
「やっぱり無理だって、絶対」
「ばか野郎。絶対なんかあってたまるか。成しゃあなんだって成るんだよ」
「でもおれは……」
「うるせえっつうの。つべこべ言わずさっさと行ってこいって」
「間瀬くんだったらいける?」
「いくよ、すっきりしねえじゃん。てか名前で呼べ」
「すっきりって……。おれがすっきりしてもさ、相手はもやもやするかもしれなくない?」
「知ったことかよ、そんなもん。告白なんてどれもわがままなもんだろうが」
そう言って、友達は顎の下で片手を握った。
「『ずっと前から、山田くんのことが好きだったのっ』」と裏声で言うと、手を下ろして、普段の声で「とかさ」と続け、今度は深くうつむいた。
低い声で言う。「『実はおれ、その……お前から借りてた漫画、借りパクとかじゃなくて、その、なんだ……母ちゃんに捨てられちまってよ……』」。
言い終えて顔を上げると、友達はいつもの調子に戻る。
「とかさ。ただ伝えたい側が伝えたいこと言うだけのことだろ? 戻ってこない漫画は借りパクじゃなかった事件なんか、持ち主はもう、もやもやどころの騒ぎじゃないじゃんか。おれならそいつぶちのめすもん」
「でも……だから、おれはそういう――」
友達は思い切り息を吸い込んで、「うるせえっつーの」と叫んで、力の限り、少年の背中を叩いた。そして、ぐいっと、強く強く、前に押し出した。
「痛!」と少年が一歩飛び出して振り返ると、友達は少し怒ったような表情を作って、「自転車に乗るときは進行方向を見ること」と、人差し指で前方をさした。
少年は勢いに任せてペダルを踏み、自転車にまたがって駆け出す。
恋の芽が、光を求めて、高く高く――空を昇り始めた。



