*
まだ朝の4時前。
布団でぬくぬくの僕の眠りを覚ましたのは、
ドアをノックする音と。
「天音~ 起きて~」
悪い予感しかしない
気持ち悪いほどの猫なで声。
「返事してくれないと、
勝手に入っちゃうよ~」
鬼を騙しておびき出すような、柔らかい声の後。
千柳さんは、僕の部屋に入ってきて、
部屋の電気をパチリ。
ベッドで目をこする僕の耳に
「雪那を喜ばせたいから、
お兄さんに協力してくれないかなぁ?」
千柳ファンが
感激で失神しそうなほど甘い声を、
吹きかけてきた。
ハチミツみたいに甘ったるい攻撃なんて
僕に効くわけないじゃん。
布団に潜りこみ
ムダにイケメンを振りまく千柳さんを
拒絶したつもりだったのに。
千柳さんの『せっちゃんLOVE』を
僕は侮っていたらしい。
布団の上から、
これでもかってほど
せっちゃんの可愛さを力説されて。
「無視するなら、家からも学園からも、
天音を追い出すよ」
不気味な声で脅されて。
僕は諦めた亀のように、
布団から頭だけ出した。