雪那からの返事がない。


 ただ、何かを伝えようする吐息だけが
 腕時計を通して聞こえてくる。


 これ以上、雪那に嫌われたくなくて。

 優しさを詰め込んだ声を
 スキップさせてみた。



「言いたくなければ、いいんだけどね」




『千柳様が……
 私に微笑んでくださったので……』


「俺、いつも雪那に微笑んでるでしょ?」


『そうじゃなくて……』


ん?



『アイドルの千柳様を
 あんな近くで見たのも……
 握手をしてもらったのも……
 初めてだったので……』


それで?


『千柳様がカッコよくて……
 緊張しちゃって……』