心美を思えば思うほど
 俺の顔に影がかかり。

 気を抜くと、
 俺の意志とは関係なく
 勝手に涙が製造されそう。




 アイドルの自分を奮い立たせるように
 俺はあえて歌声を張り

 テンションをあげて
 ダンスステップを踏んだ。





『ゾクゾクさせてあげるから、
 来週も俺たちを見に
 ゾルックライブに来てね』



 千柳が飛ばした蜜甘ウインクで、
 ライブの幕が下り。

 次はファンとの握手会。



 ステージ下に降りようと
 ステージ横の階段に向かいながらも、
 俺の瞳は一点にくぎ付け。



 

 ライブ中は、泣きそうな顔をしていたのに。

 心美は今、俺を見て微笑んでくれている。



 その陽だまりみたいな笑顔が、
 俺を許してくれたような気がして。

 ホッとして。嬉しくて。

 俺は心美に向かって、手を振ってみた。