今は、
 ゾルックライブの本番30分前。



 心美に嫌われた。

 もう、俺のライブを
 見に来るはがずない。

 そんなこと、わかっているのに。


 微かな期待を胸に、
 ステージ袖の壁に空いたのぞき穴から
 客席を見回してしまう。




 やっぱり心美はいない。



 だよな。

『早く消えろ!』と、怒りをぶつけた俺を、
 見に来ようとは思わないよな。




 自分から宝物を手放したはずなのに。

 心美を失った悲しみに耐えきれなくて、
 ステージ袖の壁に、もたれかかっていると。


 俺の前に、死神のようにな冷酷な眼をした
 天音がやってきた。




「綺月君。
 ライブが終わったら、地獄に落ちてきて」


「は?」


「僕、言ったよね? 
 心美ちゃんを傷付けたら、殺すって」


「裏切られたのは、俺の方だし」

 
「綺月君、なにそれ」


「心美が好きなのは、
 俺じゃなくて斎藤だってこと」