綺月君はイライラの炎に包まれたまま、
 壁から手を離し。

 部屋の奥にしゃがみ込んだ。

 


「俺、この家には当分、帰る気ねぇから」


 私を見ようともせず

 綺月君は苛立った顔つきのまま、
 カバンに荷物を押し込んでいる。




 私って……

 本当に、嫌われちゃったんだ……
 
 



 たくさんの幸せをくれた綺月君に
 感謝を詰め込んだサヨナラを伝えるのは、
 間違いなく今で。



 最後は絶対に
『いままでありがとう。幸せになってね』と
 綺月君に微笑むって決めていたはずなのに。


 いざ、サヨナラを伝えようとすると
 幸せな思い出が、たくさん蘇ってきた。




 綺月君とずっと一緒にいたい願望が、
 私の脳を支配して。


 ――別れたくない。

 そう思ってしまう。