このクッション。
 雪那の匂いがする。


 顔をうずめれば、うずめるほど

 心のトゲトゲも
 削られていくから不思議……




「千柳、わかってる?」


 わかってるって、綺月なんのこと?


「セーラー服の匂い嗅いで、ニヤリって。
 オマエが変質者にしか見えねぇ」



 綺月、酷っ。


 人間の血が通ってる?

 本当は冷酷な、吸血鬼なんじゃないの?




「僕がゾルックに入った初日に
 『京見千柳、逮捕』とか。本当にやめてよ。
 過去を暴露した意味、なくなっちゃうから」



 天音の心配は、そこ?
 もっと、俺の心配をして。



「綺月と心美(ここみ)ちゃんをくっつけるのに、
 俺がどれだけの時間と労力を注いだか……」


「そうだな。千柳には恩が山ほどあるし。
 今、返してやるよ」



 綺月は悪そうに微笑むと、
 楽屋のローテーブルの上に置いてあった
 俺の腕時計を持ち上げた。