心美が俺から離れる不安より
 俺を裏切った怒りの方が大きくて。


 ぐちゃぐちゃな感情は、
 憎悪に形を変え、膨れ上がっていく。




 その時。


「綺月君、行くよ!」

 天音が俺の腕を引っ張った。




「レッスン遅れると、
 マネージャーに正座させられるでしょ!」


 天音のあきれ声が、
 怒りの渦に飲まれていた俺を
 現実に引き戻してくれた。




「そうだったな。早く行かねぇと」


 額に手を当て、ため息を隠しながら
 靴箱に向かった俺だったけれど。




 ――心美の顔なんて、当分見たくない!!




 俺はこの時

 心美への怒りを、心に深く刻んでしまった。