ぼんやりとした明かりに照らされたその姿は妖艶で、私は虚ろな意識のなかでも、なんて綺麗な人なのだろうと率直な印象を抱きました。
とはいえ私はこの時菖蒲さまが何者でいらっしゃるのか存じてはおりませんでしたので、男達が豪く動揺している真意を理解できずにいました。

ただ漠然と、きっとこの女性は権力のある方なのだと程度に捉えていたのです。
それがまさかこの建物の最高権力者だなんて。
私がそれを知るのはもう少し後のことになるのですが。


「あの、菖蒲さま……これはですね、その子供が脱走を試みようとしてまして、」
「御託は結構ですわ。今すぐ失せなさい」
「ですが、」
「二度も同じことを言わせるつもりですの?」


菖蒲さまややドスを利かせた声で訊ねれば、男達は深々と頭を下げてから慌ただしく部屋から出ていきました。