逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

「頼む。俺一人ではきっと、ますます遠ざけられるだけの結果になっていたに違いない。よかったら、これからも頼らせてほしい」
「……身に余るお言葉です。これからも誠心誠意、お仕えいたします」
「ああ。キールが誇らしいと感じるような主人になれるよう、俺も努力を怠らないことを誓おう」

 キールだけじゃない。
 将来、ヴァージル公爵家を背負う者として、俺には家族や領民を守る責務がある。
 領地での闘病生活が長かったせいか、領民にはたくさん世話になった。領地で採れた葡萄をお見舞いに持ってきてくれたし、葡萄畑に遊びに行けば快く出迎えてくれた。
 一時は長く生きられないのではと言われていたのに、俺の主治医はさじを投げることもなく、外国の医者にも頼って尽力してくれた。
 同年代と比べたら背も低いし、体の線だって細い。女みたいだと揶揄されたこともある。
 病は完治して体力も多少ついてきたが、主治医の見立てでは彼らの背に追いつくのは数年はかかる見込みだ。「成長期よ早く来い」が俺の呪文だ。

(今までの恩を返すためにも立派な領主にならねば……)

 無事に成人して爵位を継ぐ際は、彼らが誇れるような主人にならなくてはならない。
 そして、そのとき隣に彼女がいてくれたらこれ以上の幸せはない。





 お茶会帰りの逃走劇から数日後。