逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 しかしながら、これほど頑なな態度を取れられるのは初めてだ。
 ここで何を言っても意味がないような気がする。でもだからといって、すごすごと引き下がることもできない。

「エステリーゼ。俺は君に婚約を申し込みたい。だめだろうか?」
「…………」

 俺の言葉に目を見開いて後ずさりしたかと思うと、エステリーゼは何も言わずに走り出した。方角的に迎えの馬車がある方向だ。
 反射的に彼女に向かって手を伸ばすが、彼女が踏みとどまることはなかった。

「待て。なぜ逃げる!? 俺の何がいけないというんだ」

 叫ぶように言うが、答えはなかった。パタパタと全速力で駆けていく彼女の姿は、すぐに小さくなっていく。
 俺は左手を下ろし、もう片方の手で顔を覆った。

(あの見事な逃げっぷり……どう考えても、俺は彼女に好かれていない)

 ある程度予想はしていたが、その事実は想像以上に心にダメージを与えた。
 俺はしばらくその場から動けなかった。





 歳も近く、兄弟のように育った従僕のキールは、将来は執事として俺をサポートしてくれる立場にある。聡明な彼は俺の行動を先読みし、臨機応変に対応してくれる。エステリーゼの関連情報を集めてくれたのもキールだった。

「キール。頼みがある……」