逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

「エステリーゼ・ウォルトン。それが君の名前じゃないか?」
「……最初からご存じだったのですか?」
「君の名前を知ったのは、君が帰った後だ。もともと、あの日は俺たちの顔合わせをする予定だった。そして……君と俺の婚約をお披露目する手筈だったと聞いた」

 よどみなく告げると、エステリーゼは考えこむように黙ってしまう。
 沈黙を選ぶ彼女を見つめながら、俺は戸惑った。

(これは、嫌な予想が当たってしまったか……?)

 万が一にも彼女を責めていると受け取られないように、言葉を選びながら口を開く。

「もしかして……と考えていたが。君は婚約したくないから、あの日、草陰にいたのか?」
「……さようでございます」
「それは、どうして?」

 俺の記憶が正しければ、彼女に対して横柄な態度を取った覚えはない。
 会う前から逃げられるほどの理由は一体、何なのか。
 どうしても、彼女の口から聞きたかった。
 すがるような目で見つめると、俺の視線から逃げるようにエステリーゼがふいっと横を向いた。そして彼女は観念したように口を開いた。

「……わたくしの口からは申し上げられません」

 何かをこらえるように、ぎゅっと目を閉じる様子から明確な拒絶を感じた。

(俺は君をもっと知りたい。そもそも簡単に諦められるような気持ちなら俺は今、ここにいない。これほど俺の心を虜にする女性は、きっともう出会えない)