ふるふると震えながら両手を組んで必死に懇願する姿を見て、俺は目を丸くした。
(な、なんだ、この可愛い生き物は……?)
今にも泣きそうな顔は、泣き真似をして同情を買おうとした令嬢とも違う。切実とした思いが伝わってくる真剣な目をしている。
その表情だけで本当に困っていることが、ありありと伝わってきた。
同時に、俺の中にあった貴族令嬢の概念が覆された瞬間だった。
(貴族令嬢はドレスや装飾品を自慢するばかりで正直、愛想笑いする価値もないと思っていたが……彼女はどの令嬢とも違う気がする。それに、これほど怯えているんだ。相当の理由があるに違いない。となると、彼女がここにいることは黙っておくのがいいだろうな)
俺は目の前のか弱い令嬢を守らねば、という謎の使命感に燃えていた。
「……事情はよくわからないが、そこまで言われたら内緒にするしかあるまい。ところで、エステリーゼという名の令嬢を知らないか?」
彼女は早く解放されたいのか、顔を背けながらもきっぱりと言い放つ。
「いえ、存じませんわ」
「……そうか。邪魔したな」
同年代の令嬢の輪に入ることもなく、一流シェフが張り切った軽食やスイーツにも手をつけないことからも、よほどの事情があるのだろう。



