逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 大人の社交界のルールよりはゆるいとはいっても、子どもにも派閥は自然とできてくる。
 親のために子どもが情報収集の手伝いをすることも珍しくない。社交歴の長い大人より、子どものほうが口が軽いからだ。
 俺が巧妙に会話を誘導するだけで、知りたい情報はだいたい手に入る。
 だから好きでもない令嬢と婚約する意味を見いだせない。わざわざ他の家に頼らなくても、自分の力で大抵のことはできるとわかっていたからだ。跡継ぎだって養子を取れば済む話だ。

(だが俺も八歳だ。筆頭公爵家の跡継ぎが俺しかいない以上、そろそろ父上が婚約者を紹介してきてもおかしくない)

 公爵家当主が決めた婚約なら、俺はその決定に従うよりほかない。
 とはいえ、もし本当に自分に婚約者ができたらと思うと気鬱だ。貴族令嬢にはいい思い出がないため、はっきり言って泣かせる自信しかない。

「ジュード」
「はい、父上。……どうかなさいましたか?」

 屋敷の廊下の窓辺から招待客を見下ろしていたら、焦った様子の父上が声をかけてきた。
 俺と同じ鳶色の瞳だが、俺と母上とは違う焦げ茶色の髪を後ろでくくったヴァージル公爵は、珍しく慌てているようだった。