逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 なぜなら今も時計の針は止まることなく、無情にも時を進めていくのだから。物語のように、都合よく時間が巻き戻るなんて奇跡は起きない。

(君の代わりなんていないのに。一体、俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ。君のいない世界で……)

 絶望の淵に立たされた中、その日、俺は最愛の人を失った。






 今日はヴァージル公爵家が主催する園遊会だ。
 公爵家から招待された貴族たちの多くは子どもを連れてきている。男子は俺の側近候補として、女子は婚約者候補として売り込むためだ。
 つまり、広大な庭園に咲く花を純粋に愛でる者はほとんどいない。
 いつも男女問わず話しかけてくるのは、俺がヴァージル公爵家の嫡男だからだ。将来の社交界を見据えて、筆頭公爵家の跡取り息子に取り入ろうと考えることは、別に不思議なことではない。
 とはいえ、見え透いたお世辞に付き合うのも、まったく疲れないと言えば嘘になる。

(この中から信頼に値する相手を見つけるというのは、なかなかに骨が折れそうだ)

 貴族は、本音を隠して相手の本心を探る生き物だ。それは当然、彼らの子どもにも当てはまる。思ったことをそのまま口に出すのは幼子がすることだ。
 友人作りでさえ、親の爵位や派閥によって決められている。当然、親や使用人が待ったをかける相手とは仲を深めることはできない。