逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 いつ彼女から婚約破棄されるかと正直不安だったが、どうにか結婚式までこぎ着けた。
 花嫁を乗せた馬車が到着するまで、あと数時間。
 静謐に包まれた大聖堂にいるのは俺と、影のように後ろを歩くキールのみ。
 大司教は、大聖堂に隣接した礼拝堂で朝の仕事を果たしている頃だろう。
 親族も招待客もいない中、俺は最前列の横長の椅子に腰かける。神に懺悔するように、組んだ両手を自分の額に当てながら口を開く。

「彼女が王都に来たときは、今までの非礼を詫びるつもりだ。これまで散々エステリーゼには暴言を吐いてしまった。彼女が許してくれることはないだろうが、それでも誠心誠意、心を尽くして謝罪する。どれだけ時間がかかっても、この命が尽き果てるまで彼女を第一に考えて行動する」

 俺の決意表明にキールが穏やかに笑うのが気配でわかった。

「はい。影ながらジュード様を見守っております」
「……ああ。これからもよろしく頼む」

 その後、軽食を間に挟みつつ、大聖堂二階の貴賓室で聖典の写しを読みながら花嫁の到着を待った。だが到着予定の時刻を過ぎても、ウォルトン伯爵家の紋章入り馬車が訪れることはなかった。
 続々と他家からの招待客は大聖堂に集まっている。