逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 すべての感情に蓋をし、何もなかったように振る舞う。その様子はいつものお茶会と何ら変わらない。だからこそわかった。
 俺の言い訳や謝罪など、最初から何も期待されていないのだと。
 好きではない男に嫁がされるエステリーゼの苦悩が垣間見えた気がして、俺は片手で目を覆った。何を言われても傷つかない人間などいない。
 心を許していない俺に、彼女は弱みを見せる真似などしない。もはや、何を言ってもエステリーゼの心には届かないだろう。
 しかし、これだけは伝えなくては。

「――結婚後、君に不自由な思いはさせない。君の夫として、最低限の礼儀は尽くそう」

 たくさんの言葉を飲み込み、顔を上げた俺はそう言うのがやっとだった。
 エステリーゼは社交辞令と受け取ったのか、素っ気なく「……そう」とつぶやくように言った。

 ◆◇◆

 純白のタキシードに身を包み、俺は王都中心部にある大聖堂を訪れていた。
 聖堂の両端には白い飾り柱が並び、深紅の絨毯が敷かれた中央の道を悠々と歩く。
 正面の五角形のステンドグラスから朝日が差し込み、七色の色彩がきらきらと絨毯の上に降り注ぐ。天の祝福を受けたような神秘的な光を受けながら、ふと立ち止まった。
 天空神をかたどった精緻な石像を見上げる。豪奢な剣を両手で持つその姿は創世神にふさわしい神々しさが宿っていた。