逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

「……信じる? あなたを? わたくしが?」

 愛情すら与えない男の一体何を信じるのか、という副音声が聞こえた気がした。
 その瞬間、俺は唐突にある可能性に気づく。

(もしや俺の態度のせいで、エステリーゼはたくさん辛い目に遭ってきたのではないか?)

 口さがない世間にとって、婚約者に顧みられない令嬢は哀れみの目を向けられてもおかしくない。それどころか、一人の男にすら愛されないことを理由に、自分より下の立場だと侮られていた恐れもある。
 けれど彼女の性格上、影で悪口を囁かれていても人前では気丈に振る舞っていたはずだ。俺もそれを当然と受け止めていた。なぜなら俺の前で弱さを見せることなんて、一度もなかったから。

(いつも強気に言い返すから、彼女は何を言われても平気だと思っていたが……もしそれで傷ついていたならば話が違う)

 エステリーゼはずっと俺の婚約者だった。
 婚約という契約で、彼女の自由を縛っていたのだ。それも何年も。
 いつも毅然とした態度だったから、無意識にエステリーゼを強い人だと決めつけていた。だが俺のいないところで一人苦しんでいたとしたら――。

(俺は本当に無神経だ……自分のことだけで精一杯だった)

 エステリーゼは言葉に詰まった俺から視線を逸らし、優雅に紅茶で喉を潤す。