「俺の顔を知らないようだから名乗らせてもらおう。俺の名はジュード・ヴァージル。そして、お前が罵倒していたのは俺の婚約者だ」
「ヴァージル……って、あの筆頭公爵家の!?」
「そうだ。俺の婚約者に不満があるなら、俺が聞こう。彼女はヴァージル公爵夫人になる女性だからな。まさかそれを知らなかったわけではあるまい?」
「……すっ……すみませんでした!」
一目散に逃げる男の背中を見つめ、俺は嘆息した。
エステリーゼの後ろには我が公爵家がついているというのに、浅慮の男がいたものだ。彼女に牙を剥くことは公爵家に喧嘩をふっかけるも同義である。
(まさか、そんなこともわからない男がいるとはな……)
見たことのない顔だったから、今日の舞踏会が初めての社交なのだろう。広く知られた俺の顔を知らないことからも、お金で爵位を買い取った新興貴族かもしれない。
男の姿が視界から完全に消えたのを見届け、エステリーゼに振り返る。
彼女は不満そうな顔をしていた。だが、珍しくその視線がさまよっている。
「……お礼なんて言わないわよ」
「ふん、礼など不要だ」
「いつも思うけど、その態度はどうにかならないわけ?」
「これが自然体だ!」
「あっそう」
エステリーゼはそれきり興味をなくしたように、くるりと踵を返してしまった。俺を一度も振り返ることなく、そのまま「化粧室に行ってくるわ」と静かに去っていく。
「ヴァージル……って、あの筆頭公爵家の!?」
「そうだ。俺の婚約者に不満があるなら、俺が聞こう。彼女はヴァージル公爵夫人になる女性だからな。まさかそれを知らなかったわけではあるまい?」
「……すっ……すみませんでした!」
一目散に逃げる男の背中を見つめ、俺は嘆息した。
エステリーゼの後ろには我が公爵家がついているというのに、浅慮の男がいたものだ。彼女に牙を剥くことは公爵家に喧嘩をふっかけるも同義である。
(まさか、そんなこともわからない男がいるとはな……)
見たことのない顔だったから、今日の舞踏会が初めての社交なのだろう。広く知られた俺の顔を知らないことからも、お金で爵位を買い取った新興貴族かもしれない。
男の姿が視界から完全に消えたのを見届け、エステリーゼに振り返る。
彼女は不満そうな顔をしていた。だが、珍しくその視線がさまよっている。
「……お礼なんて言わないわよ」
「ふん、礼など不要だ」
「いつも思うけど、その態度はどうにかならないわけ?」
「これが自然体だ!」
「あっそう」
エステリーゼはそれきり興味をなくしたように、くるりと踵を返してしまった。俺を一度も振り返ることなく、そのまま「化粧室に行ってくるわ」と静かに去っていく。



