逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 ずっと横で無理に微笑んでいたからだろう。いつもより彼女の疲労が色濃く見える。俺はエステリーゼと仲の良いランファート子爵令嬢に彼女を預け、婚約者抜きで挨拶回りをこなしていく。
 だがその日は不運が続き、途中で元老院長官の昔話に付き合わされることになった。しかも最終的に王太子殿下に絡まれて、エステリーゼを迎えに行くのが遅くなった。
 挨拶回りも終わり、足早に彼女がいた方向に足を向けると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。近くにいた周囲の貴族もひそひそと囁きつつ、ある一定方向に視線を向けている。

「俺のダンスの誘いを断るというのか!?」
「ちょっ……痛いってば!」

 騒ぎの渦中には、エステリーゼと見知らぬ若い男がいた。
 苦しげに眉根を寄せた彼女の顔を見て、一瞬で頭に血が上る。大股で近づき、その汚らわしい腕をつかんだ。

「今すぐ、その手を離してもらおうか」

 そのまま腕をひねりあげ、男から解放されたエステリーゼを後ろにかばう。
 すると、男は酒が入って気が大きくなっているのか、鼻息が荒い声で罵ってきた。

「だ、誰だ貴様! 俺は今、こいつと話を……」
「こいつ……?」
「……ひっ」

 俺の剣幕に押されてか、男が押し黙る。
 その隙を逃さず、よく通る声で周囲に知らしめるように宣言した。