逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

(……完全に手詰まりだ。俺はこれからどうすれば……)
 
 懺悔の時間は日に日に増えていく一方だ。
 結局、彼女とはあれきり会うことのないまま、俺は領地に戻った。
 父上の代理として領地の視察をこなしながらも、頭に占めるのはエステリーゼのことばかり。
 大人になった今も婚約者をけなす悪癖は一向に直る気配もなく、気づけば彼女に苦言を呈するか、嫌味しか言えない愚かな男と成り果てていた。
 身に付いた習慣はなかなか抜けず、またもエステリーゼを怒らせてしまった。

(我ながら不器用すぎる……思っていることと違うことを言ってしまうなんて)

 自分で自分を殴りたくなる。
 直接口で伝えられずとも手紙を認めてみては、というキールの助言もあり、俺は領地の自室で机に向かっていた。
 だが、いざ手紙を書こうと銀製のペン先にインクを浸すも、最初の一文字すら書けなかった。
 悩んでいる間に、ぽとりと羊皮紙にインクが染みを作る。

(季節の挨拶ぐらいはあってもいいだろうか……いや、まずは先に謝罪から始めるべきでは……? とはいえ、どう話を切り出せばいいのだ……?)

 物思いに沈んでいく中で、この状況を打破できるような一言が思いつかない。
 領地運営の仕事は難なくできるのに、婚約者のことだけはどう頑張ろうとしても挫折の連続だった。我ながら失態を重ねている有様は無様としか言いようがない。