逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 わざと煽ってくるルカにどう抗議しようかと考えを巡らせていると、ここにはいないはずの声が思考に割って入ってきた。

「おあいにくさま! わたくしだって、あなたに愛されるつもりはこれっぽっちも考えていないわ。せいぜい愛妾でも囲って、勝手によろしくやっていればいいのよ!」
「なっ……」

 愛妾など持つ気はない! と反論する前に、エステリーゼは小走りで去っていく。
 彼女に向かって伸ばした腕をがくりと落とす。
 しばらくしてルカが俺の右肩にぽんと片手を置いたので、反射的にパシッと払いのけた。よりによって、こいつから哀れみなど向けられてたまるか。

(……ああ、これはもう絶望的だ。一番聞かれてはいけない言葉を、よりによって彼女に聞かせてしまった……)

 自業自得だとわかっているが、今の自分に彼女の誤解を解くことは不可能だ。
 なぜなら、それほどの信頼関係を築けていないのだから。
 その事実がぐっさりと胸に突き刺さる。ふつふつとこみ上げる昏い感情は、まるで遅効性の毒のように体中をじわじわと浸食していった。





 誤解は早く解いたほうがいい。しかし、その誤解の解き方がわからない。
 後からあの発言は嘘だと言っても、すんなり信じてもらえるだろうか。いや、あれほどはっきり言い切ったのだ。下手に取り繕うとすればするほど、嘘こそが真実だと思われる気がする。