逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 キールには善処すると言ったが、この恋が成就する見込みはゼロに等しい。
 エステリーゼを伴って赴く舞踏会は、一日にいくつもの邸宅をはしごする。俺の婚約者として愛想笑いをしなければならない彼女をあまり連れ回したくないが、貴族の付き合いを軽んじることもできない。
 根回しと情報収集に舞踏会の顔出しは欠かせないのだ。
 ヴァージル公爵家に届く舞踏会の招待状は山のようにある。筆頭公爵家が出席した舞踏会は箔がつくため、欠席するとわかっていても主催者はこぞって招待状を送ってくるからだ。
 最初に行く舞踏会は最初の三十分ぐらいで早々に引き上げ、次の舞踏会へ移動する。そこでも当たり障りのないやり取りをした後、その日の最後の舞踏会に出席することになる。

(疲れているだろうに、今夜もエステリーゼは弱音一つも吐かない)

 婚約者として立派に責務を果たしてくれるのはありがたいが、無理をさせている自覚はあるので嬉しい反面、心苦しい気持ちも当然ある。
 腕を組んで、横を歩くエステリーゼのドレスを一瞥する。

(もはや妖精というより、まるで女神様のようだな……)

 深紅のドレスは大胆に襟ぐりが開かれ、惜しげもなく彼女の美貌を引き立たせていた。