逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 どれだけ身長が伸びても、他の令嬢に紳士的に振る舞うことができても、肝心の婚約者の前では好意を示せない。
 いくら両家の親公認とはいえ、未だに空回りしている自分は婚約者失格だろう。エステリーゼに嫌われていると誤解させたまま、今までずるずると関係を続けてきたのもよくなかった。
 本音を言えば、エステリーゼの答えを聞くのはこわい。だが聞きたい。相反する気持ちを抱えながら、俺は彼女の答えを静かに待った。
 待つ間は寿命が縮まる思いだったが、エステリーゼの声は平坦だった。

「さあ、どうかしら。政略結婚なんてこんなものじゃない? 相思相愛のイレーユのほうが珍しいと思うけど」
「う、うーん。でも普通は、贈り物ぐらいはすると思うわ……」
「あいつは嫌々、婚約しているのよ。わたくしのエスコートのときだって、ずっと仏頂面なのよ?」

 確かにエステリーゼと一緒にいるときは、緊張のあまり、硬い表情になっていたと思う。
 筆頭公爵家の息子として、婚約者である彼女に恥をかかせる振る舞いはできない。全神経を集中して完璧なエスコートを意識した結果、表情を繕う余裕は確かになかった。

(キールからは力みすぎだと注意されたこともあったな……)

 何度も脳内でシミュレーションしてきても毎回失敗続きで、彼女の前でだけ、うまく笑うことができない。逆に憎まれ口ならいくらでも叩けるのだが。