逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 だが給仕役のメイドが辞した後、それまで朗らかな笑みを浮かべていたエステリーゼは真顔になった。お互い口を開かず、ただただ重い沈黙が続く。

(ど……どうすればいい? 彼女はまだ怒っているよな。婚約の話も嫌がっていると耳にしているし、絶対に目を合わそうとしないことから考えても、これは絶対嫌われている。まずい。この状況はとてもまずいぞ)

 メイドとのやり取りから察するに、エステリーゼは社交的な性格だ。その彼女がこれほど露骨に態度に出すということは、尋常でないほど俺は嫌われているということだ。

(なんていうことだ……。これはただ謝っただけでは、きっと許してはもらえない。今さら、俺がどのくらい君を可愛いと思っているかを語ったところで、聡い彼女ならば『親から言わされただけ』だと受け取るだろう)

 いくら謝罪の言葉を重ねても、すべてが無意味に思えた。
 彼女は間違っていることは間違いだと正すことができる人間だ。貴族社会は序列を重んじる。けれど周囲が口を閉ざす場面でもエステリーゼならば、一人だけでも否と言うだろう。
 なぜなら彼女は俺を公爵家の息子ではなく、ただのジュードとして真っ向から反抗してくるような稀有な令嬢なのだから。
 普通なら異性に対して意見する令嬢は疎まれるだろうが、俺はそんな彼女もとても好ましく思う。