逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

「あ、いや。それほどまでに気に入ったのかと驚いてしまって……」
「俺の妻はエステリーゼ以外、考えられません。今日は失態を犯しましたが、絶対に挽回してみせます。どうかチャンスをください」

 よどみなく答えると、父上は呆気に取れられていたが、すぐに父親の威厳を取り戻した。厳粛な顔で息子の願いを聞き届けた。

「……わかった。ウォルトン伯には私から根回しをしておこう」
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
「いや、まずは力を抜いて、ほどほどに頑張りなさい。あまり男が必死に追いすがっては逃げられるぞ」
「それは困ります。少しずつ歩み寄ってから仲を深めます」
「うむ、それならばよい」

 婚約続行の言質が取れて、俺は心から安堵した。
 今日はつい売り言葉に買い言葉で反論してしまったが、次からは改めなくてはならない。

(だが最悪な印象を拭い去るにはどうすればいいか……。これは家庭教師のどの課題よりも難問だな……)

 何としてでも、彼女に好きになってもらいたい。
 この想いを素直に伝えるにはどうしたらいいだろう。それから俺の悩みは尽きなかった。





 後日、父上の計らいにより婚約者との仲を深めるという名目で、ヴァージル公爵家のガゼボで二人だけのお茶会を行うことになった。