逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

 ウォルトン伯に両肩を押さえられて正気に戻ったらしい彼女は、すぐに怒りを収めた。その様子を確かめ、父上が俺にも声をかける。

「ジュードも黙っていなさい。公爵家の一員という自覚があるなら、わかるね?」
「……はい」

 有無を言わさない口調に俺は従うよりほかなかった。
 さっきのことは、どう考えてもこちらが悪い。すべては俺の口の悪さが原因だった。

 ◆◇◆

 園遊会がお開きになってから、俺は父上の執務室に呼び出された。
 用件はわかっている。十中八九、エステリーゼの件だろう。

(最悪、この婚約の話は白紙に戻される。そうなれば、エステリーゼの婚約者は俺ではない別の男になる。そんなのは死んでも嫌だ……!)

 彼女は他の令嬢とは違う。俺の肩書きに興味はないのか、彼女は俺を筆頭公爵家嫡男として色眼鏡で見ることはしなかった。だからこそ興味を引かれた。
 それに俺に口答えする令嬢など、世界中を探しても彼女ぐらいだろう。

「あー……ジュード。今日のことなんだが……」
「はい。父上。俺も反省しています。どうか婚約の話はこのまま進めてください」
「…………」

 真剣さを伝えるために、しっかりと腰を九十度に折って懇願した。
 けれど、なかなか返事は来ない。訝しげに顔を上げると、目を丸くした父上がこちらを見ていた。

「父上?」