逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る

「お父様! わたくしはもっと素敵な殿方と結婚いたします!」
「なんだと!?」

 思わず言い返してしまった後で、やってしまった、と後悔するが時すでに遅し。
 彼女は大げさなぐらいため息をついて、片手を腰に当てて言い放つ。その檸檬色の瞳には嫌悪感がありありと表れていた。

「あなたのような意地の悪い男と結婚するなんて、死んでもお断りよ。だいたいね、あれが初対面の女の子に言う台詞? お世辞のひとつも言えないなんて、それでも公爵家の息子なの? 他人を批判することしかできない人なんて家畜以下よ!」
「おい、せめて人間として扱え……! お前は俺を誰だと思っている!?」
「あーやだやだ。父親の爵位が高いからって、格下の貴族はすべて自分の思い通りになるとでも思っているの? えらいのはあなたじゃなくて、あなたのお父様でしょ? それなのに、自分がすごい人だと思い込むのはどうかと思うわ」

 面と向かって侮辱されるなんて初めての経験だ。
 しかし、彼女の指摘は正論だ。先ほどの俺は権力を笠に着て、彼女を見下そうとしていた。そんな幼稚な真似、ヴァージル公爵家の息子がしてはならない。
 二の句が継げない俺に代わって、ウォルトン伯が助け船を出した。

「はいはい。そこまで。……少し落ち着こうか、エステル」
「お父様……わかりました」