逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

「もう、何を言っているの。その体で歩けるわけないじゃない。ドアの取っ手も届かないでしょ。いいから、つかまっていなさいな。絶対、落としたりしないから」
「…………」

 屈辱だ。成人男性が、手のひらの上に乗せられて運ばれるなんて。
 しかし、自力で他の部屋に移動できないのは純然たる事実。ここは心を無にするしかあるまい。
 エステリーゼは細心の注意を払って、仏頂面の俺を書斎まで運んでくれた。
 絵本が収められた箇所は、子どもの背でも届く高さに集められている。

「どの絵本? 結構、種類があるけど」
「確か、妖精が表紙の……。あの緑の絵本だ」
「わかったわ。少しここで待っていて」

 エステリーゼは絵本を取って戻り、一人がけのソファに腰を下ろした。ついでに運ばれた俺を、自らの膝の上に乗せて。

(……はっ、破廉恥だ! 君には恥じらいというものがないのか!?)

 バタバタと暴れた弾みで、指先が柔らかな太ももに触れてしまう。
 俺は両手両足をピーンと伸ばしたまま、固まった。薄着で極寒の外に放り出され、氷漬けにされたかのように。

(くっ……!)

 全力で抗議したいのに声にならない。