逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 やばい。どうしよう。俺の軽率な発言のせいで、落ち込ませてしまった。これは由々しき事態だ。謝罪は早めに限る。

「す、すまない。少し恥ずかしかっただけだ。君を傷つけるつもりはなくて」

 素直に謝ると、エステリーゼはくすくすと笑う。
 冗談だったらしい。心臓に悪い。まったく、君は悪女の素質があるのではないか?

「いいわよ。許してあげる」
「……エステル。すまないが、手鏡を貸してほしい」
「はいはい。ちょっと待ってて」

 彼女はベッドからするりと抜け出し、化粧台から持ってきてくれた。
 エステリーゼ愛用の銀の手鏡だ。磨き込まれた鏡面は曇りひとつない。裏側には見事な花の意匠が施されている。角度を変えるたび、はめ込まれた小粒のクリスタルが淡く輝く。婚約後に俺がエステリーゼに贈った品だ。
 鏡の部分は彼女の手よりも小さいが、今の俺には十分な大きさだ。
 差し出された取っ手を両手で受け取ろうとするが、予想外の重量に体勢を崩し、あっけなく俺は下敷きになってしまった。悲鳴すら上げられなかった。

「ジュ、ジュード!? しっかりして!」

 焦った声とともに、俺は抱き起こされた。