逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 ぱちりと瞼が開く。見慣れた天井。暖かな布団。
 寝返りを打つと、ゆるやかに波打つ深緑の髪が視界に入り、硬直した。

(……エステリーゼ!? なぜ俺の寝室に!?)

 あわあわと目を泳がすが、長年過ごした自室で間違いない。
 とっさに口を手で覆う。そうでもしなければ、衝動のままに叫んでいた。
 いやだってそうだろう。起きたら、好きな相手が横で寝ているんだぞ。狼狽しないほうがどうかしている。ちなみに俺はまだパニック中だ。
 できるだけ息を潜め、エステリーゼの様子をつぶさに観察する。すうすうとよく眠っている。一定の間隔で、彼女の体が少しだけ上下する。

(夢、じゃない。本物だ……)

 ほどかれた髪。閉じられた瞼。ネグリジェから覗く白い肌。
 エステリーゼ・ウォルトン。俺の最愛の人だ。
 その彼女が手の届く範囲にいる。あれほど恋い焦がれた相手が、すぐそばに。

(──ああ、そうか。俺たちはもう夫婦になったのだったな)

 夫婦ならば、寝室が同じでも問題はない。
 しかしながら、愛らしい瞳はまだ閉じられたままだ。その事実が、どうしようもなく胸を締めつける。