逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 絶望に似た境地でたたずんでいると、彼女の温かな手が俺の頬に添えられた。

「……そんな不安そうな顔をなさらないで」

 今までダンス以外で彼女から触れられたことがないだけに、心拍数が尋常でないくらい激しくなる。だがそんなことを知らない彼女は目元を和らげて俺を見上げた。

「求婚のお話、謹んでお受けします」

 それはずっと待ち望んでいた言葉だった。
 だが、これまで何度も拒まれることに慣れていた俺は、すぐに現実を受け入れられなかった。
 混乱する頭の中では、しきりに疑問符が飛び交っている。

(今、彼女はなんと言った……? 俺の聞き間違いか……?)

 もしこれが夢だったら、どんなに都合のいい夢なのだろう。
 けれど、自分の頬にある彼女の手の温もりが現実だと教えてくれる。呆然と目の前のエステリーゼを見つめると、彼女は照れたように頬を染めた。

(ゆ、夢じゃない……)

 そう判断するや否や、エステリーゼの腰に手を回し、彼女を軽々と抱き上げる。いきなり抱き上げられた彼女は軽く悲鳴を上げていたが、俺はそれどころではなかった。

「本当か、エステリーゼ!」
「……エステルとお呼びください。未来の旦那様」

 恋人に見せるような熱を帯びた眼差しと、彼女の口から出てきた旦那様という響きに、俺は危うく呼吸困難に陥りそうになった。

(だ、旦那様……! なんて破壊力のある単語なんだ……!)