筆頭公爵家嫡男である俺がかしずくのは王族ぐらいだ。どの家も、ヴァージル公爵家の息子と仲良くしておいて損はない。
 その理屈はわからなくはないが、俺の機嫌を損ねないように媚びへつらう周囲の対応も飽き飽きしていた。全員、俺自身に興味があるわけじゃない。彼らが必要としているのは、俺の肩書きだ。
 親に言いくるめられて来たのだろうとわかる持ち上げ方に、いい加減うんざりしていた。特に毎回呼びもせずに群がってくる令嬢たちには辟易していた。

 父上が「女性には優しくしろ」と言っていたが、優しくすればするほど、彼女たちはつけあがった。俺のいないところで、あることないことを言う会話をたまたま耳にしたときは、心底わかり合えないと思った。
 彼女たちが望むのは、俺の婚約者という地位だ。未来の公爵夫人になるために、表では愛想を振り向く一方、裏では自分より格下のライバルを蹴落とそうと悪知恵を働かす。従順なふりをして本性を隠す女狐たちの仮面を剥がすため、俺は彼女らをわざと煽った。
 怒らせば相手は簡単に本性を現す。泣き真似で同情を引く女には興味などない。
 俺が心から望む女性など、この貴族社会にいるわけがないのだから。
 けれど、数々の令嬢たちを泣かせてきた経験が、未来の俺を苦しめる要因になるとは露ほども思わなかった。

 その日はヴァージル公爵家主催の園遊会が開かれていた。