あの日、公園で想いを伝えあった日の翌日。



家に来た佐保さんが2時間並んでも買えるか分からないという超人気店のアップルパイを持って、私と采斗が同居する部屋にやって来た。



「あげるわ」



いつも通り堂々とした態度でそれを渡してくる佐保さん。




「あ、ありがとうございます。でもどうして急に…」


「ちょっと都さん」



隣にいた采斗が肘で小さく佐保さんを小突いた。


佐保さんがわざとらしく咳払いをしてから切り出す。




「あのキスマークは、YUUじゃない…というか、私が自分の口紅で自作自演したものです」


「…え!?口紅!?」


「あんなのに騙されるなんて貴方もやっぱり子供ね」




ふっと笑った佐保さんが、苦々しく口元を歪めた。




「貴方がこの部屋を出て行ってからのYUUは酷いなんてものじゃなかった。
撮影ではNG連発だしセリフも棒読みで…」


「ちょっと都さん!余計なこと言わなくていいから!」


「言っときますが認めたわけではありません。
ですが…とりあえず今、目の前の仕事をこなす分には…貴方がいないデメリットの方が大きいと、判断しました」




え…それってつまり…





「私と采斗が一緒にいてもいいと…いうことですか?」



「…絶対にバレないように、という条件は死守して頂きますが」



「あっ、ありがとうございます…!」




じんわり目が熱くなる。



やばいっ、思わず…!




グシッと目元を拭った私を見て、采斗が焦った声を出した。




「ちょっと都さん、もっと優里に優しく話してよ?将来の俺の奥さんなんだよ?」



「言っときますがこれとそれとは話が別です」



「そ、そうだよ采斗、結婚はまだ決まったわけじゃ…」



「優里まで!?」





というわけで、私と采斗の同居生活が再び始まって、一か月。




少しでも采斗の隣にいても恥ずかしくないように、最近はメイクとか、スキンケアとか…女子力向上に精を出す毎日だ。