「…え?」
ボトリ、と箸でつかんでいた煮卵がスープに落ちる。
顔を上げて見た一岡は、真剣な目をしていた。
「な、に突然。びっくりしたぁ~」
「何で?」
「何でって、普段一岡とこんな話全然しないじゃん」
「しただろ。前に、一回だけ。
お前、幼なじみのことが好きだったって、言ってたじゃん」
「…そうだっけ?忘れちゃった」
「俺は忘れらんねーな。
後にも先にも、お前から男の話聞いたの、その一回きりだし」
…ほんとは覚えてる。
あれは確か、高1の夏休み、模試終わりの、フードコート。
稟琉と3人で一つのポテトをつまみながら、恋バナになって。
采斗の名前とか、芸能人だってことは言わなかったけど。
幼なじみが好きだったとだけ、話した。でも、そのことをまさか一岡が、今でも覚えていると思わなかった。
「…で?もしかしてまだ、その男のことが好きなの」



