「ねえ。

ほんとにこの部屋、出てくの?」




唇を離して、名残り惜しそうに瞬きをした采斗がまだまだ近い距離のまま聞いてくる。




「……うん。佐保さんの言うことは最もだと思うし…采斗に迷惑かけたくない」



「俺のことはいいけど……うん。わかった。しばらく、落ち着くまでは一瞬離れよう」




自分を納得させるようにそう言うけど、落ち込んでいるのが隠しきれていない采斗。




「あーあ。ったく、誰だよあんな写真撮ったの…おかげで優里とのイチャイチャ新婚生活が…」



「新婚ではないけどね?」



「今回のこともそうだけど、あんなの、ほとんど間違った噂ばっか。こんな時ほんとにこの世界が嫌になる」



「…でも」





思い出す。


はじめて生で見た、采斗の舞台。あの熱量と、真剣さと、ひたむきさと。




「采斗、この仕事が好きでしょ?」




何より楽しそうだなって思った。





「……うん。楽しいよ。悔しいけど」





采斗が笑う。



私もいつか、こんな風に笑えるような、自分の道を見つけたいな。





「とりあえず受験勉強がんばるかー、采斗とはしばらく会えないし」



「えっ…なんか切り替え早くない?もう少し余韻とか…」



「たぶん采斗には関係ないんだろうけど、うちら一応高3だからね?受験生なんだよ一応」



「…一岡と勉強とかすんの?」



「え?そりゃ同じクラスだし…ってか何でここで一岡?」



「…ほんと鈍すぎて心配すぎる…」








そして私は翌日、采斗と同居生活を送っていたマンションを出た。