悟くんも言っていたけれど、それなら手術を受けて欲しいと私は思っている。


「手術ねえ。やっぱりさ、記憶をなくしちゃった時のことを考えると怖えじゃん。俺は栞のことだって忘れてしまうんだよ。こんなに大好きなのに。俺は栞に『お前誰?』なんて言うかもしれないんだよ。……だからいいんだ、もう。俺の人生はあとちょっとでおしまい。もうそう覚悟を決めてるからさ」

「あ……」


 樹くんは自嘲的に笑って、諦めたように言った。

 私はなんて言ったらいいのか、分からなかった。

 ――もし、手術が失敗してしまったら?

 樹くんは、今の樹くんではなくなってしまうかもしれない。

 一緒に出掛けたり、本を読んだり、感想を言い合ったりできなくなかもしれない。

 樹くんが樹くんじゃなくなる……?

 ううん、違うよ。

 そんなことはない。

 例え今までのことをすべて忘れてしまったとしても、樹くんは樹くんだ。

 きっと心の奥に刻み込まれている、彼の優しさは変わらないはずだ。

 もしも私のことをすべて忘れてしまったとしても、樹くんが私を闇から救い出してくれた過去が消えることは無い。