君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように

「でもそうなると思う。……そうなるよ。樹がまた元気に学校行けたらさ」


 悟くんの真剣な声音。

 樹くんのお父さんとお母さんの微笑みにも、真剣さが入り混じる。


「栞ちゃん。樹の傍にいてくれてありがとう」


 樹くんのお父さんは、私を真っすぐと見つめながら静かに言った。


「そ、そんな……! 私の方こそ樹くんにお礼を言いたいくらいでっ……。ひとりぼっちだった私に声をかけてくれたのは樹くんの方で……!」


 お礼を言われるなんてとんでもないと思った私は、焦ってそう言ったけれど、お父さんは静かに私を見つめるのをやめない。


「……樹の体のことは、もう知ってるんだよね?」

「はい……」

「あの子、どうせもう恋愛とかしたって意味ないし、って言ってたことがあったんだ。どうせ俺は死ぬんだからって」

「え……」


 そんなことを樹くんが?

 いつも前向きそうな彼がそんなことを言っている姿を、私は想像できなかった。

 だけど図書館ノートに「病気だからもう恋は諦める」と書いていたことを私は思い出す。

 ご両親と、ノートくらいにしか吐き出せなかった樹くんの弱い心。