他愛のないことも、恋愛の悩みも、優しく聞いてくれた彼に。

 そしてそんな彼にもし悩んでいることがあったとしたら、少しでも力になりたかった。


『あなたに会いたい。会ってくれませんか』


 私は勢いでノートにそう書いてしまった。

 急いで書いてしまったため、いつもより字が乱れている。

 私は素早くノートを閉じると、カウンターの隅のなるべく目の届かないところに置いた。

 見ていたら、その言葉を消したくなっちゃうんじゃないかって思えて。

 
「あれ、栞どうしたの? なんだか深刻そうな顔してない?」


 カウンター裏にある書庫の整理をしていた琴子が、戻ってきて私の顔を見るなりそう行った。


「え? べ、別にそんなことないけど」


 私は慌てて作り笑いを浮かべてそう答える。

 たぶん、一年以上も続いているノートの彼との関係に一歩踏み出そうとしたから、そんな顔をしちゃっていたんだろう。

 彼の病気のことや私の恋愛のことをノート上で相談するようになり、琴子にはノートの内容を話しづらくなっていた。


「そう? ならいいけどさー。あー、今日は仕事多そうだねー」