ノートの彼とは、その後もやり取りが続いていた。

 一度病気の話は終わったので、今度のテストの範囲がどうだとか、あの先生面白いよね、とか他愛のない話をした。

 ある日、図書室でひとりで図書委員の仕事をしていた時、私はいつものようにノートを開く。

 彼は『ショッピングモールの中のカフェのケーキ、うまいよね』と書いていた。

 あ、そこって何度も樹くんと行ったところだなあ。

 樹くんもいつもケーキをおいしそうに食べていたっけ。

 ノートの彼も、あそこのケーキが好きなんだ。

 ますます顔も知らない彼に親近感が湧く。

 そしてそれと同時に、最近すべてのことを樹くんに結びつけてしまう自分が、ちょっと嫌になった。

 ――あーあ。私また樹くんのこと考えてちゃってる。

 カフェでケーキをシェアした時のこと。

 本の感想をふたりで楽しく言い合ったこと。

 私が過去のトラウマを打ち明けた時に、本気で怒ってくれたこと。

 あー、もう!

 ノートの彼がカフェについての書き込みなんてするから、カフェでの樹くんばっかり頭に浮かんじゃうじゃない!

 自分の止められない恋心へのいら立ちを、ノートの彼に思わず八つ当たりしてしまう私。

 そこでふと、少し前のノートの彼の書き込みを思い出した。

 そう言えば、この人も好きな人がいるって言ってたっけ。

 そして病気だから諦めるって言ってたんだ。