映画を鑑賞中だから、樹くんは声を発さない。

 だけど彼の表情が、私にそう語りかけていた。

 たかがフィクションの映画に深く感情移入してしまい、泣きそうになっている私に。

 ――本当に、樹くんは優しいね。

 別の意味で泣きそうになってしまう。

 今まで、こんなにも深く心に寄り添われたことなんてなかったと思う。

 家族や琴子だって私に優しくしてくれる。

 だけど樹くんみたいに、さすがに私が何も言っていないことにまで案じてくれることは無かったと思う。

 さっき、悟くんに対して激怒したのも、きっと私の気持ちを汲んでくれたからなんだろう。

 中学生の時に受けたショック、重く引きずっていた悲しみを。

 ――どうしよう。

 私、やっぱり樹くんのこと。

 映画はヒロインの病が治り、ふたりの結婚式のシーンで幕を閉じた。

 エンドロールが終わり、場内が明るくなる。

 涙を堪えるのは、もう無理だった。

 私の頬に涙が伝う。

 すると、それを見て樹くんが笑った。


「いい映画だったね。でも栞、泣きすぎ」

「だって感動して……」


 ごめん、それは嘘。