――私にはふたつの顔がある。
とは言えこれは二重人格とは似て非なるもので、私が好きなことをする為にはこうならざるを得ない環境に置かれているゆえの、言わばスイッチの切り替えに過ぎなかった。


「月岡さんまた一位ですって」
「まさに100年に一度の天才って感じよね」
「なんか噂で聞いたけど、綾小路さん入学以来ずっと一位をキープしてる月岡さんのことかなりライバル視してるみたい」
「そりゃ綾小路さん毎回二位だもの。当然よ」
「しっ、あんまり大きな声で言っちゃ駄目だって」


教室の隅で話している女子達の会話にさり気なく耳を傾けながら、ページいっぱいに敷き詰められた明朝体の字を目で追う。
学校での休み時間と言えば、自分の席で読書をするか、トイレのために席を立つか、たまに友人とお喋りをして過ごすくらいしかない。
その内容だって成績や内申や学問絡みが大半で、年相応のお洒落や色恋沙汰の話なんか滅多にないから、正直退屈で仕方がなかった。